自主トレ表をAIで作る、誰にでも渡せる使いやすい型。
「この人用に、また一から自主トレ表を作るのか」。
その負担、実は減らせます。
一人ひとりに合わせて作り直すのではなく、誰にでも渡せる汎用フォーマットをAIと一緒に用意する方法をまとめました。
本記事は、医療従事者が「誰にでも渡せる汎用的な自主トレ表」のたたき台をAIで効率的に作るための活用例です。運動処方の決定や禁忌判断をAIに任せるものではありません。実際に配布する際は、対象者一人ひとりの疾患・重症度・術後制限・転倒リスクに応じて、担当の医療専門職が内容を確認・調整してから渡してください。
- 自主トレ表は「毎回個別に作り直す」のではなく、誰にでも渡せる汎用フォーマットとして用意しておく
- 種目・回数の基本設計は人が決める。AIには「文章を整えて型にする」役割だけを任せる
- 中止基準と見守りの一文は、どの自主トレ表にも共通で必ず入れる

「毎回作り直す」を終わらせる
結論から言います。自主トレ表は、対象者ごとに一から作り直す必要はありません。
種目・回数・注意点の基本設計はこれまで通り医療者が決めます。ただし、それを「誰にでも渡せる」汎用的な型としてまとめておけば、渡す相手ごとに文言を一から考え直す作業は大幅に減らせます。
訪問看護ステーションに勤務する作業療法士Dさん。1日6件の訪問をこなしながら、利用者ごとに毎回違う自主トレ表を一から作っていた。
Wordのテンプレートはあるが、渡す相手に合わせて文章や表を作り直すのに1件あたり15分かかる。訪問後の事務作業がいつも夜にずれ込む。
Before:1件15分、6件で1.5時間。似た内容でも毎回文章を考え直す。
After:「変形性膝関節症向け」「片麻痺の方向け」のように、対象カテゴリー単位で汎用的な自主トレ表の型をAIと一緒に事前に用意。訪問先ではその型から必要な部分を選んで渡すだけ。1件5分程度に短縮。
浮いた時間は、利用者の状態確認や記録の質を上げることに使えるようになった。次の章から、その具体的なやり方を見ていきます。
3分でわかる前提知識|自主トレ表とAI
- 自主トレ表:自宅で行う運動を、種目・回数・注意点とともに示した資料。個別に作り込むより、対象カテゴリーごとに汎用的な型として整えておくと、複数の相手に繰り返し使える。
- 生成AI:文章や表をこちらの指示に応じて作るAI。ChatGPT・Claude・Geminiなど。
- プロンプト:AIへの指示文。対象カテゴリー・目的・条件・出力形式を具体的に書くほど、そのまま型として使える結果に近づく。
なぜ「中止基準」が欠かせないのか。日本理学療法士協会の転倒予防ハンドブックでは、転倒した人の8割以上が通院や入院を要するケガをしており、介護が必要になりやすいと紹介されています(日本理学療法士協会|転倒予防ハンドブック)。誰に渡すかが決まっていない汎用フォーマットだからこそ、痛みやめまいがあれば中止するという一文を、型そのものに最初から組み込んでおくことが安全性を左右します。
医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)の「医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン(第2版)」でも、患者説明支援での活用が広がる一方、誤情報生成や個人情報漏えいがリスクとして挙げられています(HAIPガイドライン第2版)。「時短」と「安全確認」はセットで考える必要があります。
AIが得意なこと・危険なこと
AIが得意なのは、専門用語のやさしい言い換え、箇条書きの表化、複数の運動をひとつの汎用フォーマットに整理する作業です。「大腿四頭筋の等尺性収縮運動」を「太ももの前の筋肉に力を入れる運動」に変える、といった作業が向いています。
危険なのは、運動の可否そのものの判断と、汎用フォーマットをノーチェックのまま配布してしまうことです。AIは渡す相手を診ていません。禁忌の有無、負荷量の適否は、担当療法士だけが判断できます。
新人看護師Eさんは「高齢者向けの自主トレ表を作って」とだけAIに指示した。出力された表には運動が5種目、回数も具体的に書かれていたが、中止基準も見守りの注意も一切なかった。
先輩看護師が確認し、「回数の目安はこちらで決めて型に落とし込む。AIには文章を整える役割だけを任せて」と指導。中止基準と見守りの一文を追加した汎用フォーマットとして整え直してから、対象となる利用者への配布に使った。
この例の教訓はシンプルです。種目・回数の基本設計は人、汎用フォーマットへの整形はAI。この線引きを崩さないことが、安全に時短する唯一のコツです。
手作業・AI補助・配布済みテンプレ、どれを選ぶ?
| 方法 | スピード | 汎用性(多くの人に配れるか) | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 手作業のみ | 遅い | 低い(毎回作り直すため統一しにくい) | 症例数が少ない、AI利用ルール未整備な施設 |
| AI補助(汎用フォーマットの作成+医療者確認) | 速い | 高い(同じ型を対象カテゴリーの複数人に繰り返し使える) | 訪問件数が多い、カテゴリー別に配布物を整えたい場合 |
| 配布済みテンプレのみ | 速いが硬直的 | 高いが内容の更新がしづらい | すでに完成した固定プログラムがある場合 |
※評価は編集部見解です。実際の運用は施設のルールに従ってください。
実践4ステップ|プロンプトそのまま使えます
ステップ1|対象カテゴリーを決める
「変形性膝関節症、軽度〜中等度」のように、個人ではなく症状群・レベル単位で対象を決めます。特定の相手の氏名や生年月日、個別の既往歴は使いません。
以下の症状群を対象にした「誰にでも渡せる」自主トレ表のたたき台を作りたいので、想定される代表的な症状・注意点・除外すべき対象者(禁忌に近いケース)を整理してください。
【対象カテゴリー】変形性膝関節症、軽度〜中等度、屋内独歩可能なレベル
【出力形式】
・想定される症状の特徴(箇条書き)
・除外すべき対象者の例
・共通して必要な注意点
ステップ2|汎用フォーマットのたたき台を作る
種目・回数・条件は自分で用意し、AIには文章化とレイアウトだけを任せます。ポイントは、特定の1人ではなく「対象カテゴリーに当てはまる人なら誰にでも渡せる」書き方にすることです。
自主トレ表を作って。
あなたは理学療法士の資料作成を補助するAIです。以下の条件をもとに、対象カテゴリーに該当する方であれば誰にでも配布できる、汎用的な自主トレ表のたたき台を作成してください。
【対象カテゴリー】変形性膝関節症、軽度〜中等度、屋内独歩可能なレベル(個人を特定する情報は使用しない)
【目的】自宅で安全に行える下肢筋力・可動域練習の説明資料を、複数の対象者に共通して配布できる形で作る
【条件】専門用語を避ける/1回10分以内/痛み・めまい・息切れがある場合は中止と明記/対象カテゴリーに当てはまらない方は使用前に必ず担当療法士に確認する旨を明記/最終確認は担当療法士が行う前提にする
【出力形式】表形式(運動名/目的/方法/回数/注意点)
ステップ3|写真から運動イラストを作る(実例)


自主トレ表は文章だけより、イラストが添えてあるほうが格段に伝わりやすくなります。実際の運動フォームをスマートフォンで撮影し、その写真をAIに添付してイラスト化する方法も実務で使えます。
理学療法士Gさんの部署には、大腿四頭筋セッティング運動のイラストが手元になかった。スタッフに運動姿勢をとってもらい、スマートフォンで写真を1枚撮影。
その写真をAIに添付し、「太ももの前の筋肉を鍛える運動だとわかるように、線画のシンプルなイラストにしてください」と指示したところ、数分でそのまま自主トレ表に貼れるイラストが得られた。
あなたは医療資料のイラスト制作を補助するAIです。
添付した写真の姿勢をもとに、以下の条件でイラストを作成してください。
【対象運動】大腿四頭筋セッティング(太ももの前の筋肉に力を入れる運動)
【スタイル】線画、医療資料向けのシンプルなタッチ、白背景
【条件】人物の顔や特定できる特徴は描かない。姿勢と動作のポイントが伝わる構図にする
【出力】1枚のイラスト
撮影は実際の患者ではなく、スタッフや同意を得た協力者に依頼し、顔が写らない構図にする、あるいは生成時に「顔や特定できる特徴は描かない」条件を必ず付けるなど、個人が特定されないよう配慮してください。
ステップ3b|複数枚をまとめて作る
自主トレ表には複数の運動が並ぶことが多いため、1種目ずつ作業するより、まとめて依頼するほうが効率的です。方法はシンプルで、1回のメッセージに複数枚の写真をすべて添付し、番号を振って一括で依頼するだけです。
あなたは医療資料のイラスト制作を補助するAIです。
添付した4枚の写真(①〜④)をもとに、それぞれ対応する運動のイラストを1枚ずつ、合計4枚作成してください。
①大腿四頭筋セッティング(写真①)
②ヒールレイズ(写真②)
③ブリッジ運動(写真③)
④膝伸展運動(写真④)
【スタイル】4枚とも同じ線画タッチ・白背景で統一する
【条件】人物の顔や特定できる特徴は描かない
【出力】①〜④の順に4枚のイラストを出力する
リハビリ管理者Fさんは、部署でよく使う運動12種目をあらかじめ撮影し、4枚ずつ3回に分けてAIに依頼。統一感のあるイラストセットを1日で用意できた。以降は新しい種目が増えるたびに1枚ずつ追加するだけで済むようになった。
一度に依頼する枚数が多すぎると、AIが写真を取り違えたり、イラストのタッチが微妙にずれることがあります。4〜5枚程度を目安に分割し、出力のたびに番号と内容の対応関係が合っているか確認してください。
ステップ4|汎用フォーマットとして問題ないかチェックする
誰にでも渡せる内容になっているか、専門用語版と見比べて意味がずれていないか。この2点を必ず確認します。
以下の自主トレ表のたたき台について、次の観点でチェックリストを作成してください。
・運動効果を保証する断定的な表現(「必ず改善する」等)が含まれていないか
・中止基準(痛み・めまい・息切れ・動悸など)が明記されているか
・見守りや支持物使用など、転倒予防の一文が含まれているか
・特定の個人ではなく、対象カテゴリーに当てはまる人なら誰にでも当てはまる書き方になっているか
【出力形式】
チェック項目ごとに「該当あり/なし」と、該当ありの場合の修正案を示す
リハビリ管理者Fさんは、この3ステップを部署の標準フローとして採用した。
「対象カテゴリー決定→AIで汎用フォーマットを文章化→チェックリストで確認」という流れをテンプレート化したところ、部署内で使う自主トレ表の型が統一され、新人が作る資料の質もそろった。
配布前の最終確認は必ず担当療法士が行うルールも、あわせて明文化した。
ステップ5|他の説明資料にも応用する
同じ考え方は、退院指導パンフレットや家族説明資料など、対象カテゴリー単位で汎用化しておきたい他の資料づくりにも使えます。
注意点・よくある誤解
中止基準・見守りの注意・専門用語の言い換えが適切か、必ず担当療法士が確認してから配布してください。
特定の相手の氏名・生年月日・住所などの個人情報を入力せず、症状群・レベル単位で「誰にでも渡せる」型として設計してください。
汎用フォーマットは対象を広げやすい分、当てはまらない相手に誤って渡すリスクもあります。どんな状態の人には使わないかを型の中に明記し、最終的な適応判断は医療専門職が行ってください。
運動フォームの撮影は患者本人ではなくスタッフや同意を得た協力者に依頼し、顔が写らない構図にする、生成時に「顔や特定できる特徴は描かない」条件を付けるなど、配慮したうえでイラスト化してください。
「必ず改善する」「絶対に安全」といった断定的な表現は使いません。AIが自然にそうした言い回しを生成することがあるため、出力を必ず見直してください。
生成AIの業務利用可否や入力可能な情報の範囲は、施設ごとのセキュリティポリシーによって異なります。所属先のルールに従ってください。
FAQ
AIで作った自主トレ表を、そのまま患者に渡してもよいですか?
自主トレ表は患者ごとに個別に作るべきですか、それとも汎用的なものでよいですか?
運動の回数や負荷をAIに決めさせてもよいですか?
専門用語をやさしく言い換える際に注意することはありますか?
無料版のAIでも自主トレ表のたたき台作りに使えますか?
参考文献
- 公益社団法人 日本理学療法士協会|「転倒予防 転倒を予防していつまでも元気に」(リハビリテーション医療ハンドブックシリーズ18)|https://www.japanpt.or.jp/activity/asset/pdf/handbook18_whole_compressed.pdf
- 個人情報保護委員会|「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」|2023年|https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/
- 医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)|「医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン(第2版)」|2025年|https://haip-cip.org/news/20250711/
あわせて使えるダウンロード案
この記事の内容を実務で使いやすくするなら、「汎用自主トレ表テンプレート集」と「配布前チェックリスト」を1つのスターターキットとして手元に用意しておくと便利です。
変形性膝関節症・片麻痺・腰痛など、症状群別に整理した「誰にでも渡せる」自主トレ表のひな形集。担当療法士が内容を確認・編集して使う想定です。
中止基準・除外すべき対象者の記載・断定表現の有無などを確認するためのチェックリスト。
コメント