リハビリ評価シートをAIで作る、PT・OT・STのための確認手順つき実践ガイド。
「Berg Balance Scale(BBS)を評価したいのに、院内に記録用紙がない」――そんな困りごとをきっかけに、生成AIで印刷用シートのたたき台をその場で作り、現場の評価効率を上げた方法をまとめました。個人情報を入力しないための工夫、そのまま使えるプロンプト例、AI出力を医療者がチェックする手順までを一つの記事で解説します。
本記事の内容は、医療従事者が資料作成や説明文作成を効率化するためのAI活用例を紹介するものです。診断、治療方針の決定、個別の運動処方をAIに任せるものではありません。患者情報を入力する場合は、個人が特定されないよう匿名化し、最終的な内容は必ず医療専門職が確認してください。
Introduction
評価シート作成、AIで何が変わるのか

結論から言うと、生成AIは評価シートを「完成させる」道具ではなく、印刷してすぐ使える記録用紙の「たたき台」をその場で数分で用意する道具です。院内に既製の記録用紙がない評価法であっても、項目名と採点欄のレイアウトさえ整えば、AIが下書きを作り、医療者が内容を確認してから印刷・PDF化するという流れが成立します。ただし、採点基準の判定や転倒リスクの解釈は、これまで通り医療専門職が行います。
回復期病棟に勤務する経験3年目の理学療法士Aさんは、担当患者の転倒リスクを把握するためBerg Balance Scale(BBS)を実施しようとしたが、院内には統一された記録用紙が存在せず、過去の紙カルテのコピーを探し回っても見つからなかった。14項目・56点満点の採点欄を毎回手書きのメモ用紙に書き起こすのは時間もかかり、記入漏れも起きやすかった。
Aさんは、公式の評価マニュアルで14項目の名称と採点基準を確認したうえで、その項目名と採点欄(0〜4点の記入欄、特記事項欄)だけをAIに整形してもらい、A4印刷用のシートのたたき台を数分で作成した。内容を先輩療法士と一緒に原著の項目と照合してから院内共有フォルダにPDFとして保存したところ、他のスタッフも同じシートをすぐ使えるようになり、病棟全体でBBS評価にかかる準備時間が短縮された。このように「項目名は人が確認し、レイアウト作成をAIに任せる」という役割分担が、現場での効率化のポイントになる。次の章から、その具体的な進め方を見ていきます。
Background
背景・定義|生成AI・プロンプト・評価シートの前提知識
まず言葉を揃える
生成AI(Generative AI)とは、文章・画像・表などをユーザーの指示に応じて新たに作り出すAIの総称です。ChatGPT、Claude、GeminiなどのチャットAIはこの一種にあたります。プロンプトは、AIに与える指示文のことです。プロンプトの条件が具体的であるほど、AIの出力は目的に近づきます。
評価シートは、患者の身体機能・生活機能・認知面などを記録するための書式です。本記事では、評価項目そのものの選定ではなく、「印刷して使える記録用紙のレイアウト」をAIに作らせ、実際の採点・判定・最終的な内容確認は医療専門職が行うという前提で進めます。
本記事で例に取るBerg Balance Scale(BBS、バーグバランススケール)は、Bergらによって1989年に報告された、高齢者や脳卒中患者などのバランス能力を評価するための標準化されたツールです。座位・立位保持や立ち上がり、片脚立位など14項目からなり、各項目0〜4点の5段階、合計56点満点で採点します。転倒リスクのカットオフ値として45点前後が報告されており、点数が低いほど転倒リスクが高いと解釈されます(STROKE LAB|バーグバランススケール(BBS)14項目の採点方法・カットオフ値、アルメディアWEB|転倒リスク評価(BBS、TUG等))。BBSはFunctional Balance Scale(FBS)と表記されることもあり、内容は実質同一として扱われています。
医療者がAIを使う意味
医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)が公開する「医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン(第2版)」では、医療文書作成や患者説明支援など実務面での活用が広がる一方、個人情報漏えいや誤情報生成といったリスクへの対応が課題として整理されています(HAIP|医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン第2版)。つまり医療者がAIを使う意味は「時短」だけでなく、「リスクを理解した上で、確認前提の下書きづくりに限定して使う」という姿勢そのものにあります。
個人情報保護委員会も2023年、生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する事業者に対し、あらかじめ特定した利用目的の範囲内であることを十分に確認するよう注意喚起を行っています(個人情報保護委員会|生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について)。医療機関が扱う患者情報は特に機微性が高いため、この点は一般企業以上に慎重な運用が求められます。
How it works
AIが向いていること・向いていないこと

生成AIは、文章の構成整理、箇条書きの表化、専門用語のやさしい言い換え、チェックリスト化、画像生成用の指示文(プロンプト)作成といった「言葉を整える作業」を得意とします。評価シートで言えば、項目名の並び替えや説明文のたたき台作成、記入例の下書きなどがこれにあたります。
一方でAIが苦手・危険なのは、実際の患者を観察して行う運動機能の判定、数値化された点数の確定、禁忌の最終判断です。AIは学習データにもとづいて「それらしい」文章を生成する仕組みであるため、事実と異なる内容でも自然な文章として出力してしまうことがあります。これは医療分野に限らず生成AI全般に共通する性質であり、出力を鵜呑みにせず検証することが前提になります。
新人療法士Bさんは「BBSの評価シートを作って」とだけAIに指示し、出力された表をそのまま院内共有フォルダにPDFとして保存しようとした。しかし先輩療法士が内容を確認したところ、14項目のうち1項目の名称がAIによって独自の言い回しに変えられており、公式の項目名と微妙に異なっていた。BBSのような標準化された評価法は、項目の文言を変えると評価としての妥当性が損なわれるおそれがあるため、先輩療法士は項目名を原著・公式マニュアルの表記に修正させたうえで、あらためて確認してから配布するよう伝えた。
この例からわかるように、AIは「14項目・0〜4点の採点欄」といった表のレイアウトを整えることは得意ですが、項目名や採点基準の一字一句を正確に再現できるとは限りません。BBSのように文言そのものが評価の妥当性に関わる標準化ツールでは、AIが生成した項目名を必ず公式の評価マニュアルや原著と照合し、レイアウトはAI、内容の正確性は人、という役割分担を徹底することが安全な使い方です。
Comparison
手作業・AI補助・テンプレート活用の比較
BBSのように院内に既製の記録用紙がない評価法の場合、記録用紙を用意する方法は大きく分けて3つあります。目的や職場環境に応じて使い分けてください。
| 方法 | スピード | 個人情報リスク | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 手作業のみ | 遅い(毎回手書き・レイアウトを一から作成) | 低い(AIに情報を渡さないため) | 施設のAI利用ルールが未整備な場合、機微性の高い症例 |
| AI補助(レイアウトのたたき台作成+医療者確認) | 速い(採点欄つきの表を数分で生成、PDF化まで即日) | 匿名化を徹底すれば管理可能 | BBSなど院内に定型シートがない評価法の記録用紙づくり、新人指導 |
| 既存テンプレート活用のみ | 速いが硬直的 | 低い | フォーマットが施設で統一されている場合 |
※スピード・リスクの評価は編集部見解です。実際の運用は施設の情報セキュリティポリシーに従ってください。
代表的な生成AIサービスの位置づけ(編集部見解)
ChatGPT(OpenAI)、Claude(Anthropic)、Gemini(Google)はいずれも汎用の対話型AIで、記録用紙の表組みやレイアウトのたたき台作成という用途では大きな差はありません。料金プランやデータの取り扱い方針は各社が随時更新しているため、本記事では断定的な比較は行わず、利用前に必ず各社の公式ドキュメントで最新情報を確認することを推奨します。例えばAnthropicは、個人向けプランの会話データをモデル改善に利用するかどうかを利用者自身が設定できる仕組みを案内しています(Anthropic Privacy Center|モデルトレーニングでの個人データの取り扱い)。こうした設定は、患者情報を扱わない前提であっても、医療者自身が確認しておく価値があります。
Practice
実践ステップ|プロンプト実例つき

ステップ1|患者情報を匿名化する
AIに入力する前に、氏名・生年月日・住所・病院ID・具体的な入院日などを削除し、年代・性別・疾患名・障害像に置き換えます。まずこの匿名化自体をAIに手伝わせることもできます。
以下の文章から、氏名・生年月日・住所・電話番号・病院ID・具体的な入院日など、個人が特定される可能性のある情報をすべて探し出し、
「70代女性」「◯年前に脳梗塞発症」のような一般化した表現に置き換えた文章を作成してください。
【出力形式】
・元の文章のどの部分を置き換えたかを一覧で示す
・置き換え後の文章を別途提示する
ステップ2|BBSの記録用紙レイアウトのたたき台を作る
公式マニュアルで確認した14項目の名称をもとに、記録用紙の「表のレイアウト」をAIに作らせます。「作って」とだけ伝えるのではなく、項目名は自分で用意し、AIには体裁づくりに専念させるのがポイントです。
BBSの評価シートを作って。
あなたは理学療法士の記録用紙作成を補助するAIです。以下の14項目(公式マニュアルで確認済み)をもとに、A4印刷を想定したBBS記録用紙のレイアウトのたたき台を作成してください。
【項目】①立ち上がり②立位保持③座位保持④着座⑤移乗⑥閉眼立位⑦閉脚立位⑧上肢前方リーチ⑨床の物を拾う⑩後方を振り返る⑪360度回転⑫踏み台昇降⑬継ぎ足立位⑭片脚立位
【条件】各項目に0〜4点の採点欄と特記事項欄を設ける/採点基準の文章そのものは書かない(公式マニュアルを別途参照する前提)/患者氏名欄は「ID:____」のように匿名記入を前提にする
【出力形式】印刷しやすいシンプルな表(項目名/点数記入欄/特記事項欄/合計点欄)
ステップ3|出力を医療者がチェックし、PDFとして配布する
AIが作った表をそのまま配布せず、項目名・順序を公式マニュアルと照合してから、部署内でPDF化して共有します。チェック作業自体もAIに手伝わせられますが、最終判断は必ず人が行います。
以下のBBS記録用紙のたたき台について、次の観点でチェックリストを作成してください。
・14項目すべてが過不足なく含まれているか(項目名の正確性は人が原著と照合する前提)
・採点基準や転倒リスクの解釈を断定的に記載していないか
・個人が特定される情報の記入欄になっていないか(匿名ID方式になっているか)
・印刷時にレイアウトが崩れそうな箇所がないか
【出力形式】
チェック項目ごとに「該当あり/なし」と、該当ありの場合の修正案を示す
リハビリ管理者Cさんは、この3ステップ(項目確認→レイアウト作成→医療者チェック)を病棟の他の評価法にも展開した。Timed Up & Goテストや10m歩行テストなど、院内に記録用紙がなかった評価法についても、公式の項目・手順を確認したうえで同じ手順でAIにレイアウトを作らせ、その日のうちにPDF化して共有フォルダに追加していった。結果として、評価のたびに記録用紙を手書きしていた時間が減り、病棟全体の評価準備がスムーズになった。あわせて、すべてのPDFは配布前に必ず管理者が最終確認する運用を明文化した。
ステップ4|他の評価軸にも応用する
同じ考え方は、SOAP記録の整理、目標設定の文章化、Fugl-Meyer Assessmentなど他の標準化された評価法の記録用紙づくりにも応用できます。
以下の箇条書きのメモを、S(主観的情報)・O(客観的情報)・A(評価)・P(計画)の4項目に分けて整理してください。
評価や計画の断定的な結論づけは避け、担当療法士が確認・修正する前提の下書きとして作成してください。
【入力メモ】
(ここに匿名化済みのメモを貼り付ける)
Cautions
注意点・よくある誤解

評価結果の説明文や自主トレ内容を患者にそのまま渡す前に、必ず担当療法士が内容と表現を確認してください。誤解を招く表現や、施設のルールと異なる説明が含まれている可能性があります。
氏名・生年月日・住所・病院ID・具体的な入院日などは入力せず、匿名化した想定シナリオとして扱ってください。個人情報保護委員会も、生成AIに個人情報を含むプロンプトを入力する際の利用目的の確認を注意喚起しています。
評価項目やたたき台の内容は、疾患、重症度、術後制限、転倒リスク、疼痛、バイタルによって適応が変わります。AIはこれらの個別条件を完全には把握できないため、最終的な適応判断は医療専門職が行ってください。
BBSのような標準化・妥当性検証済みの評価ツールは、項目名や採点基準の文言を独自に言い換えると、評価としての妥当性が損なわれるおそれがあります。AIにはレイアウトや採点欄の体裁づくりを任せ、項目名・採点基準の文言は必ず公式マニュアルや原著と一致しているかを人が確認してください。
生成AIは自然な文章を作ることに長けていますが、その内容が常に事実に基づいているとは限りません。専門用語の使い方や検査手順の説明は、成書や施設のマニュアルと照合してください。
生成AIの業務利用可否や入力可能な情報の範囲は、施設ごとのセキュリティポリシーによって異なります。個人の判断で導入・利用を決めず、所属先のルールに従ってください。
FAQ
FAQ
医療者がChatGPTやClaudeに患者情報を入力してもよいですか?
AIで作った評価シートのたたき台は、そのまま診療記録として使ってよいですか?
Berg Balance Scale(BBS)の採点や転倒リスクの判定をAIにさせてもよいですか?
AIで作ったBBSの記録用紙をそのままPDF化して現場で使ってよいですか?
無料版のAIでも記録用紙のたたき台作成に使えますか?
AI出力に誤りがあった場合、誰の責任になりますか?
参考文献
- 個人情報保護委員会|「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」|2023年|https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/
- 医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)|「医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン(第2版)」|2025年|https://haip-cip.org/news/20250711/
- STROKE LAB|「バーグバランススケール(BBS)14項目の採点方法・カットオフ値を写真で徹底解説」|https://www.stroke-lab.com/speciality/16935
- アルメディアWEB|「転倒リスク評価|FBS、10m歩行速度、TUG、FR、30秒椅子立ち上がりテスト」|https://www.almediaweb.jp/expert/feature/1911/index04.html
- Anthropic Privacy Center|「モデルトレーニングで個人データをどのように使用していますか?」|2026年(記事更新時点)|https://privacy.claude.com/ja/articles/10023555-…
- 牛島総合法律事務所|「生成AIサービスに関する個人情報保護委員会からの注意喚起と実務への影響」|https://www.ushijima-law.gr.jp/client-alert_seminar/client-alert/ppc_generativeai/
あわせて使えるダウンロード案
この記事の内容を実務で使いやすくするなら、「AI評価シート作成プロンプト集」と「個人情報匿名化チェックリスト」を1つのスターターキットとして手元に用意しておくと便利です。
BBSの記録用紙レイアウト作成・SOAP整理・目標設定など、本記事で紹介した型を含むプロンプトのひな形集。コピー&ペーストして項目名や条件部分を書き換えて使う想定です。
AIに入力する前に確認する項目(氏名・生年月日・住所・病院ID・入院日など)をチェックリスト化したもの。入力前の最終確認に使えます。

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