AIで評価シート・自主トレ・学会準備まで——PT・OT・ST業務プロンプトを体系化する。
評価シート作成、自主トレ指導、サマリー添削、講習資料作成、蓄積データの分析、学会発表の土台作りまで。本記事では理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)の日常業務で使える生成AIプロンプトを、実際の検証データや公的機関の指針とあわせて整理する。
目次
- 導入:記録業務の負担とAI活用の現在地
- 背景・定義:PT・OT・STの記録業務と生成AIの基礎知識
- 仕組み・技術的背景:生成AIはどう「評価シート」を組み立てるのか
- 比較・選択肢:業務で使うAIツールをどう選ぶか
- 実践への落とし込み:目的別プロンプト実例集
- 注意点・よくある誤解
- FAQ・参考文献
導入:記録業務の負担とAI活用の現在地

結論から述べると、評価シートや報告書のたたき台作成に生成AIを組み込むことで、PT・OT・STの記録業務時間は現実的に短縮できる。ただし「AIに丸投げ」ではなく、プロンプトの型を持ち、最終確認をセラピスト自身が行うことが前提になる。
実例:訪問看護report作成における実証データ
医療プラットフォームを手がけるAllm株式会社は、2025年8〜10月に新潟県長岡市・三条市内の訪問看護ステーション6カ所(看護師15名、機能利用460件)で、多職種連携システム「Team」のAI要約機能を用いた実証実験を実施した。その結果、標準的なケース(報告書作成時間10分以内)で42%、高負荷なケースで39%の作成時間削減が確認されている。対象は訪問看護報告書だが、リハビリ職の評価記録・サマリー作成にも同様の構造(定型項目+所見の要約)が多く、応用可能性が高い。
編集部見解
本記事は、自主トレ指導用の一般的な文面作成、評価シートの新規作成(参考原著あり/なし双方のケース)、サマリーの添削、Word・Excel・PDF・PowerPointを使った講習資料作成、Excelに蓄積したデータの分析、学会発表の土台作り、教科書的資料の項目作成という7つの実務シーンに加え、AIが生成した専門用語や数値を自分自身に「疑わせる」ためのハルシネーション検証プロンプトまで含めて、具体的な指示文の型を提示する。
背景・定義:PT・OT・STの記録業務と生成AIの基礎知識
2-1. 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士とは
理学療法士(PT)は運動機能の維持・改善を専門とする国家資格であり、公益社団法人日本理学療法士協会が職能団体として活動している。作業療法士(OT)は食事・入浴などの日常生活動作や作業活動を通じた支援を専門とし、一般社団法人日本作業療法士協会が組織する。言語聴覚士(ST)は「話す」「聞く」「食べる」機能の評価・訓練を専門とし、一般社団法人日本言語聴覚士協会が職能団体にあたる。3職種はいずれも評価→計画立案→介入→再評価というプロセスの中で、多くの記録・文書作成業務を伴う。
2-2. なぜ今、記録業務の効率化が求められているのか
厚生労働省がまとめた医療機関の勤務環境改善に関する事業報告書では、医師事務作業補助者の活用など「医療記録(電子カルテの記録)」や医療文書作成をタスクシフト・シェアする取り組みが、業務時間短縮と医療の質向上の両立につながる施策として位置づけられている(厚生労働省委託事業「勤務環境改善に向けた好事例集」令和5年3月)。この流れはリハビリテーション部門にも共通しており、限られた人員で質の高いケアと記録の両方を維持するために、ICT・生成AIの活用が現実的な選択肢として広がっている。
2-3. 生成AI・プロンプトの定義
生成AIとは、テキストや画像などのコンテンツを新たに作り出すAIの総称で、ChatGPTやClaudeなどの対話型サービスが代表例にあたる。プロンプトとは、生成AIに対して行う指示文のことで、「役割」「条件」「出力形式」を明確に書き分けることで、出力の精度と再現性が大きく変わる。本記事のプロンプト例はすべて、この3要素を意識した構成にしている。
仕組み・技術的背景:生成AIはどう「評価シート」を組み立てるのか

生成AIは、入力された指示(プロンプト)と会話の文脈をもとに、次に来る単語を確率的に予測しながら文章を構成していく。評価シートのような定型文書を作る場合、AIは主に次の3つの処理を行っている。
- ①テンプレート構造の再現:既存の評価シートの一般的な構成(基本情報/評価項目/所見/今後の方針)を学習データから再構成する
- ②専門用語の文脈適合:入力された症例情報(疾患名・年齢・ADL状況など)に応じて、関連する専門用語や評価尺度名を選択する
- ③文章の一般化・要約:箇条書きの断片情報を、読みやすい報告書調の文章に変換する
ここで重要なのは、AIは「臨床的に正しい評価結果」を判断しているわけではなく、あくまで言語パターンとして自然な文章を生成しているという点である。数値や評価結果そのものは、必ずセラピスト側が入力・検証する必要がある。
実例:文書作成特化型AIの活用実績
医療機関向けに文書作成支援AIを提供するOPTiM社は、看護サマリー作成支援において「作成時間54.2%削減・関連業務コスト36%削減」という実証結果を公表している(OPTiM AI ホスピタル公式サイト)。この数値は同社サービスの実証実績として公表されているものであり、汎用AIチャットでの効果を保証するものではないが、「定型項目+自由記述」という文書構造を持つ医療記録全般において、生成AIが時間短縮に寄与しうることを示す一例といえる。
プロンプト設計の基本構造(比較)
| 要素 | 役割 | 評価シート作成での記述例 |
|---|---|---|
| 役割設定 | AIに専門性の文脈を与える | 「あなたは回復期リハビリ病棟に勤務する理学療法士です」 |
| 条件・素材 | 個別性の情報を渡す | 「70代女性、脳梗塞後右片麻痺、BRSは上肢III・下肢IV」 |
| 出力形式 | 再利用しやすい形に固定する | 「見出し+箇条書きで、基本情報/評価項目/所見の順に出力」 |
出典:編集部見解(一般的なプロンプトエンジニアリングの構成要素に基づき作成)
3-4. なぜAIは「もっともらしい誤り」を作るのか
ここが直感的に分かりにくいポイントだが、AIは「知っている情報を検索して答える」のではなく、「次に続く単語として最も自然なものを予測し続ける」ことで文章を作っている。そのため、評価尺度名や数値のような固有情報についても、実在するかどうかより「その文脈で出現しやすいかどうか」を基準に単語を選んでしまうことがある。これが、実在しない評価尺度名やもっともらしいが根拠のない数値が生成される(ハルシネーション)仕組みの本質だ。
この性質を逆手に取ったのが、次章で紹介する「役割を変えて読み直させる」検証プロンプトである。生成そのものを完璧にしようとするのではなく、生成と検証の工程を分離することで、精度を実務レベルまで引き上げるのが現実的なアプローチになる。
比較・選択肢:業務で使うAIツールをどう選ぶか
記録業務にAIを取り入れる際は、コスト・セキュリティ・カスタマイズ性のバランスで選択肢が分かれる。代表的な3タイプを比較する。
| 項目 | A:汎用AIチャット(個人向け無料〜有料プラン) | B:法人向け生成AIプラン | C:医療・介護現場特化型サービス |
|---|---|---|---|
| 代表例 | ChatGPT無料版・Plus等 | ChatGPT Business/Enterprise等 | OPTiM AI ホスピタル、Allm「Team」等 |
| 入力データの扱い | プラン・設定により学習利用される場合がある | 契約上、入力データを学習に利用しないことが明記される | 医療現場の運用を想定した設計・セキュリティ対応 |
| 初期コスト | 低い(無料〜個人契約) | 中〜高(法人契約・個別見積り) | 中〜高(導入・電子カルテ連携費用を含む場合あり) |
| 向いている用途 | 個人情報を含まない一般的な文面のたたき台作成 | 組織単位での本格導入、業務データを扱う場合 | 電子カルテ連携や施設内の記録業務全体の効率化 |
| 公式情報 | ChatGPT料金ページ | ChatGPT Business/Enterprise料金ページ | OPTiM AI ホスピタル公式/Allm社プレスリリース |
出典:各社公式サイト(2026年7月時点の情報。料金・仕様は変更される場合があるため必ず公式サイトで最新情報を確認すること)
個人が自主トレ用の一般的な文面を作る程度であればAで十分だが、患者の症例情報を扱う可能性がある場合はB以上の選択が望ましい。施設単位で記録業務全体を見直す場合はCの検討価値が高い。
実践への落とし込み:目的別プロンプト実例集

以下、業務シーンごとにプロンプトのたたき台を紹介する。いずれも個人を特定できる情報(氏名・生年月日・住所・カルテ番号等)は入力せず、症例の属性のみを一般化して入力することを前提にしている。
自主トレーニング指導文の作成(一般的な内容)
個別性は別途セラピストが調整する前提で、まずは疾患・部位別の一般的な自主トレ文面をAIに作らせる。
以下の条件で、患者さん向けの自主トレーニング指導文を作成してください。
#対象
・変形性膝関節症(術後ではない)の70代女性
・独歩は可能だが階段昇降に不安がある
#条件
・自宅で1人でも安全に行える種目を3つ
・各種目は「回数・頻度・注意点」を明記
・専門用語は使わず、平易な言葉で
#出力形式
種目ごとに見出しをつけ、箇条書きで出力してください。
評価シートの新規作成(参考原著あり/なし)
参考原著がある場合は、尺度名を明示してAIに項目構成をなぞらせる。
Berg Balance Scale(BBS)の評価項目構成に沿って、
記録用の評価シートの雛形をMarkdown表形式で作成してください。
#条件
・14項目の見出しと、各項目のスコア基準(0〜4点)を簡潔に記載
・合計点の記入欄を末尾に用意
・「参考:Berg Balance Scale」と出典欄に明記すること
#自己検証(末尾に必ず記載)
・記載した14項目・スコア基準のうち、あなたが確信を持てない箇所があれば
「要一次資料確認:〇〇」の形で1行にまとめて教えてください。
・確信が持てる場合は無理に指摘を作らず「確信度:問題なし」とだけ書いてください。
参考原著がない場合(施設独自の観察式チェックシートなど)は、目的と観察項目を伝えて叩き台を作らせる。
在宅生活を送る高齢者の「食事場面での安全性」を
毎回の訪問時に短時間でチェックできる観察シートを作成してください。
#条件
・既存の標準化尺度は使わず、独自のチェック項目でよい
・項目数は8つ以内、○×形式で回答できる形に
・出典欄には「施設独自様式(未検証)」と明記すること
💡 なるほどポイント:「無理に指摘を作らないで」の一言が効く理由
上のプロンプトに入れた「自己検証」の指示には、実は仕掛けがある。単に「間違いがあれば教えて」と頼むだけだと、AIは指摘すること自体が期待されていると解釈し、問題がない箇所にまで無理やり指摘を作り出すことがある(過剰検出)。そこで「確信が持てる場合は無理に指摘を作らず」と明示的に許可を与えることで、AIは「指摘するか・しないか」をより素直に判断しやすくなる。生成AIは、指示の「行間」にある期待にも反応してしまう——この性質を理解しておくと、評価シートに限らずあらゆるプロンプトの精度が上がる。
サマリーの添削
書き上げたサマリーの草稿をAIに読み込ませ、構成・表現・抜け漏れの観点でチェックさせる。
理学療法士として、以下3つの観点でレビューしてください。
1. ADL評価の記載に矛盾がないか
2. 専門用語の使い方が適切か
3. 読み手(次の担当者)が経過を追いやすい構成か
#出力形式
指摘事項を箇条書きで示し、必要に応じて改善後の文例も提示してください。
#下書き
(ここにサマリー本文を貼り付け)
講習資料作成(Word・Excel・PDF・PowerPoint)
資料の種類ごとに出力形式を指定するのがポイント。ファイル化はAI搭載の文書作成機能やOffice側の操作と組み合わせる。
以下を作成してください。
1. Word資料用:見出し構成案(大見出し3〜5・小見出し各2〜3)
2. PowerPoint用:1枚1メッセージで構成したスライド見出し10枚分の骨子
3. 配布用チェックリスト(Excel想定):確認項目を表形式で
#条件
・対象は入職1年目のPT
・各項目に「よくある失敗例」を1つずつ添える
PDF配布用のレジュメが必要な場合は、Word/PowerPoint原稿を作成後、PDF変換して配布するのが実務上扱いやすい。
Excelに蓄積したデータの分析
「ディープラーニングをさせる」という発想そのものは魅力的だが、現実的にはまず傾向分析・可視化から始めるのが妥当だ。データ分析機能(コードインタープリター)を持つAIであれば、Excelをアップロードして次のように指示できる。
「初期FIM合計点」「年齢」「疾患カテゴリ」「退院時FIM合計点」が入っています。
#依頼
1. 疾患カテゴリ別に、初期FIMと退院時FIMの変化量を集計してください
2. 変化量に影響していそうな要因を、相関分析で確認してください
3. 結果を棒グラフで可視化してください
#注意
・臨床的な因果関係の断定はせず、あくまで傾向として提示してください
・数値は必ずコードの実行結果から算出し、文章として推測で数値を書かないでください
・サンプル数が少なく統計的に不安定な区分がある場合は、その旨を明記してください
編集部見解:チャット上の指示だけで臨床応用可能な精度のディープラーニングモデルを構築するのは難しく、まずは記述統計・可視化・簡易な回帰分析から着手し、本格的なモデル構築が必要な場合はデータサイエンティストや院内の情報システム部門と連携することが望ましい。なお「数値は必ずコードの実行結果から算出」という一文は、AIが計算を経ずに”それらしい数値”を文章として書いてしまう挙動を防ぐための指定であり、データ分析系プロンプト全般に応用できる。
学会発表の土台作り
以下のテーマで、抄録の構成案(目的・方法・結果・考察の骨子)を作成してください。
#テーマ
在宅脳卒中患者に対する自主トレ指導の継続率向上の取り組み
#条件
・各項目3〜4行程度の箇条書き
・「結果」は仮の数値プレースホルダーで示し、実データは後で差し替える前提とする
教科書的資料の項目作成
「起き上がり動作の介助」の章について、以下の項目立てで本文を作成してください。
1. 動作のメカニズム(骨盤・体幹の動き)
2. 介助が必要になる典型的なケース
3. 介助手順(ステップ形式)
4. 注意点・禁忌動作
#条件
・各項目200〜300字程度
・専門用語には簡単な注釈を添える
【全ステップ共通】ハルシネーション検証プロンプト(2段階チェック法)
Step1〜7で作った文章は、作成した会話とは別に、あえて「査読者」の役割を与え直して読ませるのが最も効果的な検証法だ。同じ会話の続きで「これで合っていますか?」と聞くと、AIは自分の直前の出力を追認しやすい傾向がある。役割とチャットを切り替えることで、初見の目でチェックさせる効果が生まれる。
以下の文章について、他の担当者が作成したものとして厳密に確認してください。
#確認観点
①実在するか確信が持てない評価尺度名・専門用語はないか
②具体的だが出典を明示できていない数値はないか
③前後の文脈と論理的に矛盾する記述はないか
#出力形式
・問題がある場合のみ、箇所と理由を箇条書きで指摘してください
・問題がなければ、無理に指摘を作らず「特記事項なし」とだけ回答してください
#確認対象の文章
(Step1〜7で生成した文章をここに貼り付け)
注意点・よくある誤解

!個人情報・要配慮個人情報を入力しない
個人情報保護委員会は、生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分確認するよう注意喚起している。氏名・生年月日・カルテ番号などは入力せず、症例属性を一般化して扱うことが基本になる。
!AIの出力を「事実」として鵜呑みにしない
生成AIは文脈上自然な文章を作ることに長けているが、存在しない評価尺度名や数値をもっともらしく生成することがある(いわゆるハルシネーション)。評価尺度名・カットオフ値・統計数値は、必ず一次資料や公式情報で照合すること。第5章Step8で紹介した「役割を変えて読み直させる」検証プロンプトを、記録・報告書のたたき台作成時のルーチンに組み込むことで、思い込みによる見落としを減らせる。
!「AIが作ったから個別性がある」と誤解しない
AIが生成する文章は、あくまで学習データに基づく一般的なパターンの再構成であり、対象者固有の個別性を自動的に反映するわけではない。個別性の反映と最終的な臨床判断は、常にセラピスト自身が担う必要がある。
よくある質問
参考文献
- 公益社団法人日本理学療法士協会「国民の皆さま向けトップ」(参照:2026年7月)
https://www.japanpt.or.jp/ - 一般社団法人日本作業療法士協会「協会について」(参照:2026年7月)
https://www.jaot.or.jp/ - 一般社団法人日本言語聴覚士協会 公式サイト(参照:2026年7月)
https://www.japanslht.or.jp/ - 厚生労働省委託事業「勤務環境改善に向けた好事例集」令和5年3月
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001128611.pdf - Allm株式会社「訪問看護の報告書作成時間を最大42%削減 AIで“看護師がケアに使える時間”を創出」PR TIMES、2026年
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000128.000044577.html - Allm Inc.「訪問看護の報告書作成時間を最大42%削減」プレスリリース原文(Allm公式)
https://www.allm.net/news/20260525/ - 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」令和5年6月2日
https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/ - OpenAI「ChatGPTのプラン|無料版、Go、Plus、Pro、Business、Enterprise」公式サイト(参照:2026年7月)
https://chatgpt.com/ja-JP/pricing/ - 株式会社オプティム「OPTiM AI ホスピタル」公式サイト(参照:2026年7月)
https://www.optim.co.jp/optim-ai-hospital/
上記以外の数値・見解のうち出典明記のないものは「編集部見解」または「編集部想定シナリオ」です。
コメント