【2026年版】スマホ1台でリハビリの動作分析はどこまでできる?現状と始め方

医療AI活用ラボ


スマホ1台で、リハビリの動作分析はどこまで進化できるのか。

結論から言えば、関節の角度や歩行速度といった「経過を数値で残す」ところまでは、もう特別な機材がなくても今日から始められる。ただし「診断」や「治療方針の決定」はまだAIの役割ではない。本記事では、実際に使われているアプリの事例と検証データをもとに、現状でできること・まだできないこと・これからの始め方を整理する。

PART 01

導入:スマホ動作分析で、いま何が分かるのか

結論を先に言うと、スマホのカメラとAIの骨格推定技術を組み合わせることで、膝や股関節の角度、歩行速度、左右差といった「動きの経過」を客観的な数値として記録することは、すでに臨床・介護の現場で実用段階に入っている。従来は専用の三次元動作解析装置(VICONなど)が必要だった領域に、スマホ1台で近い水準の情報が得られるようになってきた。


SOURCE / 出典

実例:整形外科クリニックでの導入事例として、みらいの丘整形外科クリニックでは、AIによるマーカーレス3D動作解析アプリ「SPLYZA Motion」の導入前後で、患者への説明方法に変化があったと報告されている。従来は言葉と動画だけで症状や状態を説明していたため患者が視覚的に理解しづらい状況があったが、動作を数値化することで、主観に頼らない客観的な情報共有ができるようになったとされる。(出典:SPLYZA Motion 導入事例)

この記事では、こうした「スマホ動作分析」がどんな仕組みで成り立っているのか、どこまでの精度が出ているのか、そして実際に始める場合の手順まで、一次情報をもとに順を追って整理していく。



PART 02

背景・定義:まず押さえておきたい3つの用語

姿勢推定(Pose Estimation)とは、画像や動画に映った人物の関節位置(肩・肘・膝など)を、コンピュータビジョンによって数値データとして推定する技術のことを指す。Googleが公開している「MediaPipe Pose」はその代表例で、全身から33個のキーポイントを検出できる仕組みを持つ。(参考:MediaPipe Poseの仕組み解説)

マーカーレスモーションキャプチャとは、身体に反射マーカーを貼り付ける従来型の光学式システム(VICONなど)とは異なり、カメラ映像のみから骨格や動作を推定する方式のこと。特殊な機材を必要としないため、スマホ1台でも導入できる点が最大の特徴となる。

SaMD(Software as a Medical Device/プログラム医療機器)とは、ソフトウェア単体が医療機器として扱われる区分のこと。動作分析アプリがこれに該当するかどうかは「使用目的」によって個別に判断される、と厚生労働省・PMDAのガイドラインで整理されている。(参考:PMDA プログラム医療機器)

編集部見解として付け加えると、マーカーレス方式が普及した背景には、深層学習の推論速度がスマホでも実用的な速さに達したことと、専用機材が不要になったことによるコスト面のハードル低下がある。実際、市場調査会社Grand View Researchの推計では、マーカーレスモーションキャプチャの世界市場は2023年時点で6,242万ドルに達し、2024〜2030年の年平均成長率は17.1%になると予測されている。

FUTURE ROADMAP

近い将来(現在〜)

「撮るだけ」で経過を可視化

関節角度・歩行速度の記録と、専門職への共有。すでに実用段階。

数年内

AIによる予後予測・転倒予測

動作データから入院日数や転倒リスクを予測する取り組みが実証段階に入っている。

中長期

専門職の判断を支援するAI

撮影データが自動でリハビリメニュー提案・オンライン指導と連携する方向へ。

「今後できる可能性が高い」領域として編集部が特に注目しているのが、動作データを起点にしたAI予後予測である。社会医療法人北斗十勝リハビリテーションセンターは、ソニーネットワークコミュニケーションズと共同で、AIプラットフォーム「Prediction One」を活用し、入院日数・転倒・食事程度といった予後の予測に取り組んでいる。(参考:十勝リハビリテーションセンターのAI予後予測事例)スマホでの動作分析データが、こうした予後予測モデルの入力情報のひとつとして組み込まれていく可能性は高いと編集部は見ている。

また、転倒予防の領域でも、カメラ映像からAIが転倒につながりやすい姿勢を検知し、事故が起きる前にスタッフへ通知する「まもあい(mamoAI)」のようなシステムが介護現場に登場している。転倒前後の映像を証拠として記録しつつ、送信する映像は被写体をモザイク処理するなどプライバシーにも配慮した設計になっている点は、PART 06の注意点とも関わる重要な事例である。(参考:AI転倒検知システム まもあい)

PART 03

仕組み:AIはどうやって関節を見つけているのか

MediaPipe Poseに代表される姿勢推定AIは、大きく2段階のパイプラインで動いている。

  • ①検出(Detection):最初のフレームで人物の位置を検出する、比較的重い処理。
  • ②追跡(Tracking):2フレーム目以降は軽量な処理で関節位置を追い続けることで、スマホでもリアルタイム処理を実現している。
  • ③座標化:検出された33点のキーポイントから、関節角度や重心移動などを計算する。

OpenPoseなど他のライブラリと比較すると、MediaPipeは処理が軽く、モバイル端末上での動作に向いている点が特徴とされる。一方で、あくまで2Dまたは疑似3Dの推定であるため、複雑な動作や体の向きが変わる場面では誤差が生じやすいという限界もある。


EDITOR’S VIEW / 編集部想定シナリオ

変形性膝関節症のリハビリで、スクワット動作を30fpsの動画で撮影したケースを想定する。開始時点の膝関節屈曲角度が約90度までしか出ていなかった患者が、8週間の運動療法を経て約115度まで可動域が広がった、という経過を数値グラフで可視化できれば、患者本人のモチベーション維持にもつながりやすい。※これは編集部が想定した一般的なシナリオであり、特定の症例データではない。

なお、こうしたマーカーレス手法の妥当性については、単眼カメラによる歩行分析システムとVICONとの比較検証も進んでいる。歩行時間や距離のパラメータでは非常に高い信頼性が確認された一方、最大速度歩行時の股関節屈曲角度では単眼カメラで約9.1度、複合カメラでも約8.0度の差分が生じたと報告されており、動作の種類によって精度にばらつきがある点は理解しておく必要がある。(参考:VisionPoseとVicon比較検証)



PART 04

比較・選択肢:どのタイプを選べばいいか

スマホで動作分析を行う手段は、大きく3タイプに分けられる。それぞれの特徴を比較する。

項目 A:汎用姿勢推定アプリ B:介護・現場向け歩行分析 C:ウェアラブルセンサー型
代表例 SPLYZA Motion/Posen トルト歩行分析AI/Sportip Moffバンド 等
撮影・装着方法 スマホ/タブレットで撮影のみ スマホで歩行動画を撮るだけ 身体にセンサーを装着
関節角度の精度目安 股関節約5.3度・膝約4.4度・足関節約4.9度(RMSE) 歩行時間・距離パラメータは高信頼性、複雑動作はやや低下 Viconとの比較検証で精度検証論文あり
導入コスト目安 初期13万円2万円前後の例あり 介護・医療事業者向けに個別見積り センサー機器購入+クラウド利用料
医療機器(SaMD)該当性 目的次第、多くは非該当運用 目的次第、要個別確認 目的次第、要個別確認
主な用途 スポーツ・整形外科クリニックでの説明用 介護施設での歩行アセスメント 身体機能の定量評価

※精度数値は2024〜2025年発表のマーカーレス関連メタ分析・検証研究、コスト例は各社公開情報をもとにした編集部整理。個別の契約条件は公式サイトで要確認。

介護・現場向けのサービスとしては、スマホで歩行動画を撮るだけでAIが身体機能の変化を見える化する「トルト歩行分析AI」のような、理学療法士の知見をもとに開発されたサービスも登場している。(参考:トルト歩行分析AI公式)また、筑波大学発ベンチャーが提供する「Sportip」のように、スマホ1つでリアルタイムに3D動作解析ができるアプリも、デイサービスや整形外科クリニックを中心に導入が進んでいる。

PART 05

実践:今日から始める5つのステップ

STEP 1撮影環境を整える

被写体との距離は目安約3m、全身が画角に収まる高さにスマホを固定する。背景と身体のコントラストがはっきりしていると骨格の検出精度が安定しやすい。

編集部想定シナリオ:訪問リハビリ先の6畳間でも、対角線上に三脚を置けば全身撮影が可能なケースが多い。

STEP 2目的に合ったアプリ・サービスを選ぶ

自主トレの確認用か、臨床評価用かで選択肢は変わる。PART 04の比較表を参考に、用途とコストのバランスで選定する。

実例:整形外科クリニックでは「SPLYZA Motion」を患者説明用として導入した事例が報告されている。

STEP 3動作を撮影する

推奨フレームレートは30fps以上。歩行分析であれば10秒間×3回程度撮影し、平均値をとると外れ値の影響を減らせる。

編集部想定シナリオ:1回だけの撮影では義足の慣れや疲労の影響でばらつきが出やすいため、複数回の撮影が推奨される。

STEP 4数値を専門職と共有する

算出された関節角度や歩行速度は、必ず理学療法士・作業療法士などの専門職と共有し、解釈と次の運動メニューの判断を仰ぐ。

実例:エクサウィザーズと北原病院グループが共同開発したオンライン遠隔リハビリサービスでは、AIによる骨格抽出技術で撮影した自主トレ動画をセラピストが遠隔で確認し、フィードバックする仕組みが試験導入されている。(出典:日経BP Beyond Health)

STEP 5継続的に記録し、振り返る

週1回程度のペースで同じ条件(距離・角度)で撮影し続けることで、経過を折れ線グラフのように追える状態にする。

編集部想定シナリオ:4週間ごとに数値を振り返る運用にすると、専門職との面談タイミングにも合わせやすい。



PART 06

注意点:導入前に知っておきたい3つのこと

! 精度には限界がある

関節角度の誤差は股関節・膝関節・足関節でそれぞれ4〜5度前後(RMSE)とされ、タンデム歩行のような複雑な動作では2D解析の限界が見られるという報告もある。「絶対値」よりも「経過の変化量」を見る使い方が適している。

! 「医療機器」かどうかは目的次第

動作分析アプリがプログラム医療機器(SaMD)に該当するかどうかは、診断や治療方針の決定に直接使うことを目的としているかどうかで判断される。判断に迷う場合は、開発者の希望ではなく法令に基づき個別に確認する必要があるとPMDAは案内している。(参考:医療のプログラム開発のきほん)

! 撮影データの同意とプライバシー

身体の動画を撮影・保存・共有する以上、本人(または家族)への説明と同意取得、クラウド保存先のセキュリティ確認は欠かせない。特に顔が映り込む撮影角度の場合は、用途を明確にした上で同意を得ることが望ましい。

PART 07

FAQ:よくある質問

スマホでの動作分析は、VICONのような三次元動作解析装置と同じくらい正確ですか?
完全に同一の精度ではありません。マーカーレスの関節角度計測では股関節・膝関節・足関節で数度程度の誤差(RMSEで股関節5.3度・膝関節4.4度・足関節4.9度前後)が報告されており、タンデム歩行のような複雑な動作では誤差が広がる傾向があります。一方、時間・距離パラメータ(歩行速度や歩幅など)は信頼性が高く、日常のスクリーニングや経過観察には十分実用的な水準です。
医療機関でなくても自宅で使えますか?
対応アプリやサービスであれば自宅でも撮影・記録は可能です。ただし数値の解釈や治療方針の判断は理学療法士・作業療法士・医師などの専門職が行うべきであり、自己判断だけでリハビリメニューを変更することは推奨されません。
導入にはどのくらいの費用がかかりますか?
サービスによって幅があります。一般向け・専門施設向けアプリでは初期費用10万円台・月額2万円前後の例が確認できる一方、無料または低価格帯の姿勢推定アプリも存在します。導入目的(自主トレ確認用か、臨床評価用か)によって適切な価格帯は異なります。
プログラム医療機器(SaMD)に該当しますか?
該当性は「使用目的」によって個別に判断されます。単に動作を撮影して可視化するだけのアプリは非該当となるケースが多い一方、診断や治療方針の決定に直接使うことを目的とした機能を持つ場合はプログラム医療機器に該当し得ます。判断に迷う場合はPMDAのSaMD一元的相談窓口などで確認することが推奨されています。
今後どのような機能が期待されますか?
骨格推定の精度向上に加え、動作データを起点にしたAI予後予測(入院日数や転倒リスクの予測など)や、転倒につながる姿勢をカメラで検知する仕組みなど、記録の先の「予測」「予防」に活用する取り組みがすでに実証段階に入っています。編集部見解として、今後数年でスマホ動作分析は「記録するツール」から「専門職の判断を支援するツール」へと役割が広がっていくと考えられます。
転倒リスクの高い高齢者が自己判断で使うのは危険ではありませんか?
撮影自体に大きな危険はありませんが、分析結果をもとに新しい運動を自己流で始めることにはリスクがあります。特にバランス能力に不安がある場合は、必ず担当の理学療法士など専門職と結果を共有した上で運動内容を決めることが重要です。

🏆

STAGE CLEAR

スマホ動作分析は「専門機材の代わり」ではなく、「専門職の判断を助ける記録ツール」として使うのが現時点での最適解。精度の限界と法規制を理解した上で、まずは撮影から始めてみよう。

REFERENCES

参考文献

  1. SPLYZA「SPLYZA Motion 導入事例(みらいの丘整形外科クリニック)」https://motion.products.splyza.com/case/case-16.html
  2. zero2one「MediaPipe Poseで学ぶ!リアルタイム姿勢推定AIの仕組みと実装を解説」2026年https://zero2one.jp/learningblog/pose-estimation-mediapipe/
  3. PMDA(医薬品医療機器総合機構)「プログラム医療機器」https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/about-reviews/devices/0048.html
  4. JAAME「薬機法やルール等を知ろう|医療のプログラム開発のきほん」https://www.jaame.or.jp/program/rule.html
  5. 独り抄読くん(note)「歩行動作解析のための新システムの信頼性および妥当性の検証」2025年https://note.com/solo_comprehend/n/n7f443ade43c3
  6. CareWiz「トルト歩行分析AI」公式サイトhttps://toruto.carewiz.ai/gait-analysis/
  7. 江田憲治/日経BP Beyond Health「オンライン遠隔リハビリ、エクサウィザーズと北原病院」2022年(2020年取材)https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/feature/00053/071200011/
  8. WiredFit「動作分析アプリ比較2026:クラウド型・AIマーカーレス中心におすすめ6選を評価」2026年https://wiredfit.jp/ja/articles/motion-analysis-app-comparison/
  9. 1post(POST)「テクノロジーの進化ーAI姿勢・動作分析アプリ「Sportip」」https://1post.jp/7049
  10. PT-OT-ST.NET「回復期リハビリ病棟でAI予後予測、ソニーと十勝リハセンターが共同開発」2024年https://www.pt-ot-st.net/index.php/topics/detail/1633
  11. まもあい(mamoAI)公式サイト「AIを活用した転倒検知システム」https://mamoai.jp/

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