Raspberry PiとArduinoの違い――用途で選ぶ判断基準を一気に理解する。
「結局どっちを買えばいいの?」その答えは、作りたいものの性質で決まります。OSの有無という根本的な違いから、リアルタイム性・消費電力・処理性能まで、選び方を体系的に解説します。
目次
01ArduinoとRaspberry Piは「競合」ではなく「役割分担」できる
「どちらが優れているか」という問い自体が誤り
結論から言えば、「ArduinoとRaspberry Piのどちらが優れているか」という問いには意味がない。なぜなら、両者は設計思想がまったく異なる道具だからだ。作りたいものの性質によって、最適解は変わる。それだけでなく、実際のプロジェクトでは両方を組み合わせることも多い。それぞれの得意分野を、分担させる使い方だ。
役割分担の実例:消費電力モニタリング
実例を1つ紹介する。家庭の消費電力をモニタリングするシステムを、ArduinoとRaspberry Piを組み合わせて構築した事例だ。PyCon JP 2014の発表事例では、次のような構成が紹介されている。Raspberry Piをサーバーとして、Arduinoを電力量センサーデバイスとして使う構成だ。具体的には、Arduinoが電流センサーの値をリアルタイムに近い形で読み取る。そして、Raspberry Piがそのデータを受け取り、Webアプリケーションとして提供する。さらに、データベースへの蓄積も担っている。
編集部見解:「センサーに近い、時間にシビアな処理はArduino」「データの集約・保存・ネットワーク連携はRaspberry Pi」という役割分担は、実際のIoTプロジェクトでもよく見られるパターンだ。ですから、どちらか一方を選ぶ前提ではなく、両方の特性を理解したうえで使い分ける視点を持つことが有益である。
― YOFUKASI LAB編集部
本記事では、まずArduinoとRaspberry Piを分ける根本的な違いを解説する。そのうえで、リアルタイム性・消費電力といった技術的背景を扱う。最後に、用途に応じた選び方までを、初心者から中級者向けに体系的に紹介する。
02両者を分ける根本的な違いの基礎知識
ArduinoとRaspberry Piの違いを整理する記事は数多い。しかし、共通して挙げられる最大の違いはOS(オペレーティングシステム)の有無である。Workship MAGAZINEの比較記事によれば、次のように説明されている。Arduinoは、コンピューターの一部であるマイコンだ。一方、Raspberry PiはOSが搭載されており、コンピューターとして使える。これが両者の違いだと説明されている。
用語の整理
- マイクロコントローラボード(マイコンボード):OSを持たず、単一のプログラムを実行し続ける基板。Arduinoが該当する。
- シングルボードコンピュータ(SBC):OSを搭載し、単体でコンピュータとして機能する基板。Raspberry Piが該当する。
- スケッチ:Arduino用のプログラムの呼び方。C/C++に似たArduino言語で記述する。
OSの有無は、実際の使い勝手にも直結する。オリックス・レンテックの解説記事にも、関連する説明がある。ArduinoはOSが存在せず、一度に制御できるタスクは一つだけだ。これは、複雑な処理ができないという弱点でもある。しかし、一つのタスクに集中できるため、リアルタイム性を確保できるというメリットにもなる。
なお、Arduino本体の構成やピン配置についてもう一度確認したい場合は、以下の記事も参考になる。Arduinoメインボード徹底解説はこちらの記事で紹介している。また、Raspberry Piの基礎から知りたい場合はRaspberry Piとは?基礎知識と始め方も参考になる。
03リアルタイム性・消費電力の仕組みと技術的背景
リアルタイム性は「OSを介するかどうか」で決まる
OSの有無は、リアルタイム性と消費電力という2つの実用的な違いを生む。Qiitaの図解記事では、次のように説明されている。Raspberry PiはOS上で動作するため、Arduinoと比較するとリアルタイム性に劣る。たとえば、ドローンの姿勢制御のような場面では、Arduinoを使用した方がよいとされている。
消費電力はバッテリー駆動の可否を左右する
また、消費電力についても違いがある。Arduinoは消費電力が少ないことが特徴で、バッテリーでの長時間駆動に向いている。一方、Raspberry Piは消費電力が大きいため、バッテリーでの長時間駆動には向いていないとされている。
たとえば、土壌の水分量を数時間おきに測定し、バッテリーで数週間動かし続けたいプロジェクトを考えてみよう。この場合、常時OSを動かし続けるRaspberry Piよりも、必要なときだけ動作するArduinoの方が有利になりやすい。逆に、カメラ映像から物体を検出し、通知を送るような処理では話が変わる。豊富なライブラリと処理性能を持つRaspberry Piの方が、現実的な選択肢になる。
処理性能についても違いがある。同記事によれば、Raspberry Piは汎用的な処理も想定して設計されている。そのため、高い処理性能を要する制御にも対応できる。つまり、画像処理や機械学習などの高度な処理には、Raspberry Piを使用する方がよいとされている。
なお、Arduino IDEの基本操作をもう一度確認したい場合は、以下の記事も参考になる。Arduino IDEのダウンロード・インストール方法はこちらの記事で解説している。
04Arduino・Raspberry Pi・M5Stackの比較
電子工作でよく比較される選択肢を、Arduino・Raspberry Piに加えてM5Stackも含めて整理する。
| 項目 | A. Arduino | B. Raspberry Pi | C. M5Stack |
|---|---|---|---|
| OSの有無 | なし(マイコン) | あり(Linuxベース) | なし(マイコン、ESP32ベース) |
| 得意な用途 | リアルタイム制御・低消費電力 | 画像処理・機械学習・サーバー | 手軽なIoT・小型プロトタイピング |
| 開発言語 | Arduino言語(C/C++ベース) | Python・C++など多数 | Arduino言語・MicroPython等 |
| 本体サイズ・携帯性 | コンパクト | やや大きい(周辺機器込みだと更に) | 非常にコンパクト(液晶・電池内蔵モデルも) |
※M5Stackとの比較の詳細はDEVICE PLUSの記事を参照。各項目の評価軸は編集部見解を含む。
初めての1台なら、目的で選ぶとよい。電子工作の基礎を学びたいならArduino、Linuxやネットワーク連携も含めて幅広く学びたいならRaspberry Pi、そして手軽さと携帯性を重視するならM5Stackだ。この整理が分かりやすい。
05実践:用途からボードを選定する5ステップ
ここでは、ある編集部想定シナリオを題材にする。作りたいものが決まっている状態から、ArduinoとRaspberry Piのどちらを選ぶか判断する場面だ。判断の手順を、順番に示していく。
-
STEP1. タスクの性質を書き出す
やりたいことを、具体的な動詞で書き出そう。たとえば「センサー値を読む」「モーターを動かす」「画像を解析する」「Webサーバーを立てる」のようにだ。
実例:「温度センサーの値を1秒おきに読み取り、閾値を超えたらファンを回す」というタスクを書き出した。 -
STEP2. リアルタイム性の要求度を確認する
タイミングのズレが致命的か、多少の遅延が許容できるかを判断する。致命的であればArduinoが有力候補になる。
実例:ファン制御はミリ秒単位の精度が不要だったため、リアルタイム性の要求は「中程度」と判断した。 -
STEP3. 必要な処理性能を見積もる
画像処理・機械学習・複数プロセスの並行実行など、重い処理が必要かどうかを確認する。必要であればRaspberry Piが有力候補になる。
実例:今回のタスクには画像処理などの重い処理は不要だったため、処理性能の要求は「低い」と判断した。 -
STEP4. 電源環境と稼働時間を確認する
バッテリー駆動が前提か、常時電源に接続できるかを確認する。バッテリー駆動かつ長時間稼働が必要であればArduinoが有利になりやすい。
実例:このプロジェクトはUSB電源に常時接続する前提だったため、消費電力の制約は「緩い」と判断した。 -
STEP5. 総合的に判断し、必要なら組み合わせも検討する
STEP2〜4の結果を踏まえて、最終判断する。リアルタイム性を優先する要素と、ネットワーク連携を優先する要素が両方ある場合は、組み合わせる構成も検討しよう。
実例:今回はリアルタイム性が中程度、処理性能の要求が低く、電源制約も緩かったため、シンプルさを優先してArduino単体での実装を選んだ(編集部想定シナリオ)。もしスマートフォンアプリへの通知機能を追加するなら、Raspberry Piをネットワーク窓口として組み合わせる構成に発展させる余地がある。
Arduinoでの具体的なコードの書き方をもう一度確認したい場合は、以下の記事も参考になる。
06注意点・よくある誤解
最後に、ArduinoとRaspberry Piをめぐってよくある3つの誤解を整理しておく。あらかじめ知っておくと、選定の失敗を避けやすくなる。
誤解しやすい3つのポイント
Raspberry Piは、処理性能や機能面で優れている点が多い。しかし、OS上での動作によるリアルタイム性の揺らぎや、消費電力の大きさというトレードオフもある。そのため、単純な機能の多さだけで選ぶと、バッテリー駆動やタイミングがシビアな用途で不利になることがある。
Arduinoは一度に一つのプログラムしか実行できないが、これは「複数のセンサーを扱えない」という意味ではない。1つのloop()の中で複数のセンサーを順番に読み取ることは可能である。ただし、複数の独立したタスクを本当の意味で並行処理したい場合には、Raspberry PiのようなOSベースの環境の方が向いている。
両者は排他的な選択肢ではない。実際のプロジェクトでは、役割を分担して組み合わせて使われることも多い。たとえば、センサーに近い部分をArduinoが担当し、データの集約やネットワーク連携をRaspberry Piが担当する、という構成は実例としても報告されている。
07FAQ
参考文献
- Kakisako, Junichi「Python、Raspberry Pi、Arduinoで作る消費電力モニタリングシステム」PyCon JP 2014. https://pycon.jp/2014/schedule/presentation/27/index.html
- Workship MAGAZINE編集部「ArduinoとRaspberry Piの違いは? 長所/短所を徹底比較!」Workship MAGAZINE, 2018年. https://goworkship.com/magazine/arduino_raspberrypi/
- オリックス・レンテック「安価なIoT導入を促進するマイコンボード「Arduino」 Raspberry Piとの違いは?」オリックス・レンテック, 2021年. https://go.orixrentec.jp/rentecinsight/it/article-136
- akinami「【初心者向け】結局、Arduinoとラズパイって何が違うの?【図解】」Qiita, 2024年. https://qiita.com/akinami/items/f5b58689d546698d1ff9
- DEVICE PLUS編集部「ラズパイ・Arduino・M5Stackの特徴と使い分け」DEVICE PLUS, 2022年. https://deviceplus.jp/raspberrypi/raspberry-pi-arduino-m5stack-tsukaiwake-1
- 本文中の具体的な判断プロセスは、断りのない限り編集部想定シナリオに基づく想定であり、実測データではありません。
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